勃起障害(ED)治療薬として知られているバイアグラの有効成分「シルデナフィル」。
実はED治療以外にも様々な効果があり、疾患の予防や治療に有効である可能性が報告されています。
この記事では、バイアグラの様々な効果について、どのように作用するのか、新たに発表された研究などと共に紹介します。
バイアグラは男性の勃起不全(ED)の治療薬として世界で初めて承認された薬です。
ED治療薬として発売以来、世界的に爆発的な人気となり、その名前を知らない人はいないと言っても良いほど認知度が高まりました。
発売から25年以上経った現在でも、世界中で非常に根強い人気を誇っています。
バイアグラの人気の理由は、あらゆるEDに効果を発揮する強力な勃起力にあります。
有効成分シルデナフィルは「ホスホジエステラーゼ 5 型 (PDE-5) 阻害剤」という種類に属する薬です。
勃起が起こるには、2つの酵素の働きが関係しています。
1つは、血管を拡張して血流を促進することで勃起を起こす「cGMP」、そしてもう1つは勃起を鎮める「PDE-5」です。
シルデナフィルはPDE-5の働きをブロックする作用があります。
そして血液中のcGMPの濃度を高めることにより陰茎の血流を増加させ、ED改善および勃起できる状態を維持してくれるのです。
*さらに詳しい作用機序は「バイアグラの効果」で解説しています。
PDE-5阻害剤は血圧を下げる作用があります。
現在、その作用を応用して、勃起不全以外の下記の疾患や症状に対して、治療・症状の緩和・予防の可能性があるとして研究が進められ、その有効性が示されています。
肺の血管が硬化して収縮して内肺血圧が上昇し、息切れ、呼吸困難などの症状が起こり、最終的には酸素を取り込めなくなってしまう難病が肺高血圧症です。
シルデナフィルを服用すると、血管拡張作用により肺の血管が拡がり肺血圧が下がり、血流が改善されます。
その結果、酸素の取り込み量が増加するので呼吸がしやすくなり、息切れや呼吸困難が和らげられます。
また、病気の進行を遅らせるので、通常よりも長生きできる可能性があるとされています。
本来、狭心症や心筋梗塞に対する治療薬として研究開発された薬です。
そのため、直接心臓に負担をかける心配はなく、むしろ、血管を拡張して血圧を下げることで心臓への負担を軽減させます。
スウェーデンで行われた研究によると、『心筋梗塞のリスクが低下する可能性がある』という結果が報告されました。
高山病は低酸素に曝されることで肺血管が収縮、肺動脈圧が上昇することで起こります。
しかし、シルデナフィルを予防的に服用することで、血管拡張作用により肺の血流が改善され、肺動脈圧も低下し、血液循環が円滑になるので高所肺水腫が予防できると期待されています。
2021年12月、アメリカの科学雑誌「ネイチャーエイジング」で、『バイアグラを服用している人は、服用していない人と比較して、6年間でアルツハイマー病を発症するリスクが69%低かった』との研究報告が掲載されました。
この研究は723万人の医療保険の請求データに基づいて実施されており、確実性が高い研究結果とされています。
アルツハイマーは、脳内でアミロイドβやタウタンパク質が蓄積することで脳が萎縮し、日常の行動や記憶などに支障をきたす病気です。
PDE-5阻害剤に含まれる特定の成分が、脳の血流を促進することでニューロンへ直接的に作用し、アルツハイマー病の予防に効果をあらわすと考えられています。
アミロイドβやタウタンパク質の蓄積を防いでアルツハイマーの症状を抑え、脳のエネルギー消費を削減して、脳機能を向上させる可能性があるという研究発表もあります。
ただし、実際の効果や患者への投与については、併用禁忌の薬もあるため慎重な検討が必要です。
シルデナフィルがアルツハイマー病を予防する具体的なメカニズムは、まだ完全には解明されていませんが、今後更に研究が進められ明らかになっていくことが期待されています。
このように、バイアグラの有効成分であるシルデナフィルは、ED治療薬としての役割に加えて、肺高血圧症の治療や心臓疾患リスクの低減など、血管拡張作用によって酸素レベルと心臓機能を高め、あらゆる症状を改善・治療できる可能性が示されています。
また、現在根本的な治療が無いアルツハイマー病についても効果があるとの研究報告もあります。
これらの研究は現在まだ検証中のものもあり、今後もシルデナフィルが持つ効果について、今後の調査に期待がされています。
参照:
勃起不全およびアルツハイマー病のリスクのある男性におけるホスホジエステラーゼ 5 型阻害剤(英語サイト)
シルデナフィルがアルツハイマー病の候補薬であることを特定(英語サイト)
シルデナフィルはアルツハイマー病の候補薬です: 患者誘導多能性幹細胞由来ニューロンにおける実際の患者とRNAシーケンスデータの観察(英語サイト)
肺動脈性肺高血圧症に対するクエン酸シルデナフィル療法(英語サイト)