CBDがパニック障害や不安障害に悩む人の症状を緩和する可能性について、これまでも多くの研究が続けられてきました。今回、米国での新たな研究で、THCのリスクを伴わないCBD製品がパニック障害や不安障害に対して有効に働くことが証明されました。
ここでは、今回の新しい研究で明らかになったCBDがパニック障害に働くメカニズムや、CBDの適切な摂取量、正しい摂取のポイントについて説明します。
不安障害やパニック障害の患者数は、年々増加の一途を辿っており、約10人に1人の割合で発症するとも言われるほど身近な疾患として知られてます。
不安障害と言ってもその種類はさまざまで、
● 全般性不安障害:仕事や日常生活などの活動に対して過剰な不安や心配を慢性的に感じる
● パニック障害:突発的に不安症状が出る
● 心的外傷後ストレス障害(PTSD):突然の不幸な出来事や恐ろしい体験によって不安症状が出る
● 社会不安障害:他人の目が過剰に気になって緊張や恐怖を感じる
● 強迫性障害:普通では問題ないと思えることに不安や心配を強く感じる
などがあります。
現在、不安障害やパニック障害の治療に対して、抗うつ薬のSSRI (選択的セロトニン再取り込み阻害剤) や、抗不安薬のベンゾジアゼピン系薬剤などが薬物療法として使用されています。しかし、このような薬には副作用が大きいというデメリットもあります。
SSRIは副作用として吐き気や嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状、眠気やめまいなどの精神神経系症状が現れる場合があります。
また、ベンゾジアゼピン系の薬は副作用として眠気や倦怠感の症状が現れたり、長期間服用すると薬剤耐性のために薬の効果が弱くなってしまうケースも多く、短期間での使用が望ましいと言われています。
過度の不安や恐怖に起因する不安障害に対するCBDの有効性は、長期に渡り多くの実験や臨床試験が実施されてきました。
さらに、近年では「不安・うつ症状」に対してCBDを使用する人も増えています。
参照:Cannabis and Cannabinoid Research「CBD使用者の横断調査」
そして今回、アメリカのコロラド大学ボルダー校は、アメリカで合法で市販されている大麻が、不安症状にどのような影響を与えるかを調査する初のランダム化試験を実施しました。
不安障害の症状を抱える300人を試験対象者とし、そのうち大麻を使用していない不安症状のある参加者42名と、週に約3~4回大麻を使用している不安症状のある参加者258名の比較分析を行いました。
このうち大麻を使用したことがある参加者258名を、
・THC成分が優勢の製品(THC 24%、CBD 1% 未満)を使用するグループ
・THC+CBD含有量が同量の製品(THC 12%、CBD 12%)を使用するグループ
・CBD成分が優勢の製品(THC 1% 未満、CBD 24%)を使用するグループ
の3つに分け、それぞれの製品を使用しました。
試験は4週間にわたって実施され、参加者は指定された大麻製品を好きな時に好きなだけ使用することが認められます。
この試験では参加者は平均週3回大麻製品を使用していました。
また、4週間の不安症状の変化は、患者全体の変化印象 (PGIC) スケール、うつ病、不安、ストレス スケール (DASS) によって測定されました。
カンナビジオール (CBD) とテトラヒドロカンナビノール (THC) は、不安感情やパニックに対して様々な異なる効果を持っていると言われています。
CBDは脳神経に働きかける成分であることが知られていますが、主にマリファナの成分であるTHCとは違い、「ハイ」になる精神活性作用や依存性が無く、リラックスの効果をもたらします。
体には健康を保つ機能の1つであるエンドカンナビノイドシステム(ECS)というものがあり、精神状態や睡眠、免疫系などで必要不可欠な働きをします。
体内で自然に作られる内在性カンナビノイドとCBDのカンナビノイドは相互に作用し、カンナビノイド受容体に結合して身体機能を調節します。
さらに、CBDは脳内で働く神経伝達物質のセロトニンにも働きかけます。
セロトニンの受容体(5-HT1A受容体)を活性化させ、セロトニンの働きを向上させます。これにより、感情や気分をコントロールしたり精神を安定させてリラックスさせます。
これらのメカニズムにより、CBDはパニック障害や不安障害の改善へと導きます。
臨床試験の結果について、研究期間終了時に全てのグループが不安感の減少を報告しました。特に、大麻を使用したグループは、使用していないグループと比較して顕著な不安感の軽減が見られました。中でもCBDを多く含む製品を使用したグループでは、最も大きな改善が認められました。
興味深いことに、CBDを多く含む製品を使用したグループの参加者は、障害を感じることはなかったにも関わらず、喫煙後の緊張感が著しく低下したと報告しています。さらに、他の大麻グループと比較して、使用直後の被害妄想を経験するリスクも低かったとのことです。
研究によるとTHCが長期的な不安感を増加させることはなく、CBD優勢の大麻は急性ストレスの軽減に関連しており、これが不安症状の長期的な緩和に寄与する可能性があることが示されています。一方で、大麻の過剰な使用やTHC濃度の高い製品の使用は、長期的な不安感を悪化させるリスクがあるとする研究も存在します。
なお、日本国内ではTHCを含む大麻製品の販売、使用、所持は法律により禁止されております。
2017年の研究によると、多くの研究が示す通り、CBDは比較的安全な治療法であることが確認されています。このレビューで検討された研究結果からは、すべての人に適用可能な一般的なCBDの摂取量は存在しないことが明らかになりました。代わりに、個々の人々(動物研究では異なる種類の動物も)がCBDの異なる量に対して異なる反応を示すことが強調されています。人間を対象とした研究では、多くの場合、1日に20mgから1,500mgのCBDオイル等が使用されています。
状態 | 用量* |
---|---|
不安 | 日あたり300mg~600ミリグラム*12 |
特定のてんかん | 体重 1 キログラムあたり 2.5 ミリグラムを 1 日 2 回から開始*3 |
中枢神経障害性疼痛およびがん関連痛 | 1日最大30ミリグラム(または12回噴霧) |
関節炎 | 1日最大30ミリグラム(または12回スプレー)、または局所適用250ミリグラム*4 |
*用法用量に関しては、CBDがプラセボに比べて有意に効果があるとされた小規模な短期の臨床試験の結果に基づいています。より確かな証拠を得るためには、さらに大規模な研究が求められます。
CBDはパニック障害や不安障害の症状を緩和する可能性があるとされています。最近の米国の研究では、THCを含まないCBD製品がこれらの障害に対して有効であることが示されました。CBDは、エンドカンナビノイドシステムやセロトニン受容体に作用することで、不安を軽減するメカニズムを持っています。臨床試験では、CBDを多く含む製品を使用したグループが最も大きな改善を見せました。しかし、CBDの摂取量には個人差があり、一般的な用量は存在しません。不安症状に対しては、1日あたり300mgから600mgのCBDが有効であるとされていますが、これは小規模な短期臨床試験の結果に基づいており、より大規模な研究が必要です。日本では、THCを含む大麻製品の使用は法律で禁止されています。
参照:
*1:カンナビジオールは模擬スピーチ試験において逆U字型の用量反応曲線を示す:Scielo Brasil (英語サイト)
*2:カンナビジオールは、未治療の社会恐怖症患者において、模擬人前で話すことによって誘発される不安を軽減する。:pubmed (英語サイト)
*3:EPIDIOLEX-カンナビジオール溶液:DailyMed (英語サイト)
*4:Sativex 口腔粘膜スプレー - 製品特性の概要:emc (英語サイト)
CBDの用途はリラクゼーション・睡眠改善・不安軽減・健康増進・抑うつ軽減であることが明らかに。:日本統合医療学会誌 Vol.15 No.2(2022年11月)
カンナビジオールの治療効果とその作用機序:保健医療学雑誌 9 (2)
大麻の花に含まれるカンナビジオールの急性および長期にわたる抗不安効果: 準実験的な自由使用研究(英語サイト)
カンナビジオールの安全性と副作用に関する最新情報(英語サイト)